Fødselsdag fejret med smørrebrød

文化料理伝統

Jan 25

スモーブロで祝う誕生日　

今回は、デンマークでの暮らしの中で感じる豊かなひととき、「誕生日を祝う」ことについてご紹介したいと思います。

誕生会は、誕生日を迎えた人が家族や友人と一緒にゆっくりしたひとときを楽しむことが目的になるため、子どもだけではなく、大人も誕生会を開くのが一般的です。大人の場合、50歳や60歳などの区切りのよい年には、家族だけではなく友人なども幅広く招き、50〜100人、特には何百人もの盛大な会を開くことも少なくないのですが、それ以外の誕生日には家族と家族同様に親しい人々を招き、比較的、小規模の会を開きます。小規模といっても一般家庭に10名前後が集まるのが普通だと思います。我が家では９名が定番となっていますが、階下に住む女性には4人のお子さんと11人のお孫さんがいらっしゃるので、お誕生日のお祝いは、中庭にテントを貼って、お子さんと伴侶、その子どもたちという顔ぶれを招いて25人を超えるお誕生日会を開いていらっしゃいます。子どもや高齢者は別ですが、基本は本人が誕生会を主催するというという考え方も、デンマークに暮らし始めた頃には、とても新鮮に感じました。

誕生日は祝ってもらうものではなく、周りの人にも誕生日を迎えた喜びを分かち合うという発想から、誕生日（週末の場合、その前後）に、職場や学校に皆と祝福を共有するためのお菓子やパンを持参する慣習もあります。職場だとコーヒーやお茶は飲める共有スペースに置いたり、学校だと授業の合間に配ったりします。お祝いのお裾分けをいただきながら、持ってきてくれた人の誕生日が祝福されることを願います。その時に誕生日プレゼントやお裾分けへのお返しを用意する、という習慣はなく、それぞれが誕生日に持ち寄ることで循環している感があります。周りの人と誕生日の喜びを共有し、その人たちからも誕生日を祝福してもらうという習慣は、心が温まります。

夫の誕生日は、クリスマスの一連の行事に幕が閉じるとされる「三賢者の日」の翌日1月7日です。誕生日のお祝いは当日にも行いますが、親や独立した子どもなどの家族や親しい友人などを招く場合、皆が集まりやすい週末に誕生会を開きます。その場合、誕生日の後に開くことが一般的ですが、今年は仕事や学校が1月6日からのスタートだったため、その前日の１月５日に誕生会を開きました。

誕生会を開いた翌日から仕事や学校が再開するとなると、夕方にはお開きとし、それぞれが翌日に備えるスタイルが適切ではないか・・という話になり、午後の集まりにすることにしました。午後の集まりには、午後2時あたりからティーボーラと呼ばれる菓子パン生地で作るパンにホットチョコレートやココアを添えて出し、その後で誕生日のお祝いケーキをコーヒーや紅茶で楽しむパターンと、午後1時あたりから、ゆっくり午餐を楽しむパターンがあります。デンマークでの午餐の代表選手は、お祝いスモーブロ。今年はお祝いスモーブロで誕生会を行うことにしました。

デンマークの誕生日祝いにつきものなのは、国旗です。北欧諸国の国旗は、スカンジナビア十字が色違いで意匠されていますが、これらのバリエーションはデンマーク国旗から発祥したとされ、世界最古の国旗とも言われる由緒ある国旗です。デンマークの国旗は赤と白。この赤と白は、デンマークで「祝賀」を意味しますが、国を象徴する色でもあるため、国民としての「団結」を意味しているようにも感じます。

皇室の方々の誕生日には、公共機関やバスに国旗が掲揚されますが、一般の人の誕生日にも国旗は欠かせません。お祝いに使うテーブルや食卓の上だけではなく、玄関先やドアや壁、そして、料理やケーキにまで旗を立てます。デンマーク国旗に祝賀の意味を持っていることが、このような習慣にも見ることができます。

さて、今回は、お祝いスモーブロのことを具体例でご案内したいと思います。

家庭で開くお祝いスモーブロの会には、ある程度の不文律や大枠が存在します。列挙すると、下記のようになります。

① 午後1時あたりにスタートする。

② ロブロがメインで何種類かのパンを用意する。

③ 飲みものは、ピルスナー・シュナップス・炭酸水などに、参加者の好みを反映させたものを追加する。

④ 料理は何回かに分けてサービングする。

⑤ 乾杯した後、にしんのスモーブロでスタートする。

⑥ 魚介（にしん以外）のスモーブロに使う具材を並べる。

⑦ スモーブロ用の温かい魚料理を供する。

⑧ 肉類のスモーブロに使う具材を並べる。

⑨ 温かい肉料理を供する。

⑩ チーズを用意する。ワインを合わせることが多い。

⑪ スイーツを供する。コーヒーや紅茶を準備する。

家庭によって、いろいろな形が存在しますし、季節によってもお出しするものが異なります。そして、ライフスタイルの変遷にしたがって、上記の不文律にも変化が生まれています。

今年の誕生会には、この不文律に家族の好みを反映させたメニューを組み立てました。同じ番号で比べてみたいと思います。

① 午後1時すぎのスタート。

② ロブロと全粒スペルトパンを用意。いずれも自家製。

③ ピルスナー・シュナップス・ワイン・炭酸水・スパークリングティーを用意。

④ デザートまでに４サービング

⑤ にしんのマリネ（紫玉ねぎのマリネ・ゆで卵・胡椒草・ゆでじゃがいも）・カレー風味のにしんマリネ（りんご・ゆで卵・胡椒草）・にしんの揚げ焼き甘酢漬け（紫玉ねぎ・ディル）

⑥ 鮭の塩糖スパイスマリネ「グラブラックス」（ディル風味マスタードソース）・えびとゆで卵（胡椒草・マヨネーズ）

⑦ 魚のフリカデラ・根菜レムラードソース

⑧ 省略

⑨ 豚三枚肉のロースト・紫キャベツの甘酢煮・紫キャベツのサラダ

⑩ チーズは省略。ロブロのお祝いケーキで誕生日を祝う。

⑪ 一口クランセケーエ・デザートワイン・紅茶

基本的に料理は盛り皿にパーツごとに用意します。飲みものとパンをテーブルに運び、にしん関係もテーブルに並べて、着席をお願いし、乾杯します。

パンかごにパンが幾種類か並んでいても、にしんと一緒に食べるのは、例外なくロブロ。手元のお皿にまずロブロを一枚とります。にしんの組み合わせがいくつかあるので、一枚を1/2にカットして、まず、スモーブロを1組作ります。最初のロブロ1/2枚にバターやタイムの香りつきのラードを塗り、スモーブロ1組分の具材を大皿から自分のお皿にとり、スモーブロを組み立て、他のお客様と歓談しながら、そのスモーブロをゆっくり味わいます。お皿にもう片方のロブロ1/2枚が残った段階で、先ほどと同じようにバターやラードを塗り、次のスモーブロの具材をとって、別のスモーブロを作って楽しむ、そんな運びになります。大皿での提供だからといって、ビュッフェ方式にならないのがデンマークのお祝いスモーブロです。

何事にも例外があると言いますが、今回は、全員、にしんの揚げ焼き甘酢漬けを最初の一皿にしていました。にしんの揚げ焼きは、ロブロ一枚の大きさに合わせて形成しています。最初の一品ということもあり、今回は、皆揃って、ロブロ一枚ににしんの揚げ焼き甘酢漬け1枚分をのせていました。お祝いスモーブロにはかなりの量が供されるとわかっているので、朝ごはんも軽くし、長い散歩をして、この会に臨むことが多いため、お腹もかなり空いている状態なのです。とはいえ、揃ってロブロ1枚でのスモーブロから始める光景には、ちょっと驚きました。この料理は、皆が大好きで楽しみにしてくれている一品なのですが、作り手の私への敬意を表してくれていたのです。おもてなしの気持ちと作る側へのおもいやりの気持ちが交差する一瞬は格別ですね。

にしんのマリネは2種類以上用意します。今回は後にかなり続くので、今回は二種類、王道のマリネとカレー風味のマリネを用意しました。クレームフレーシュもしくはサワークリームを添えることもあります。夫はゆでじゃがいもをにしんと組み合わせることを好みます。かなりボリュームが出るので、健啖家の方向きです。紫玉ねぎのマリネやりんごで甘酸っぱさを加えますが、フレッシュなりんごをカレー風味のマリネに合わせる手法は、とてもデンマークらしく映ります。一通りの組み合わせを食べてもよいし、好みの組み合わせだけでも、好きなもののお代わりもOKです。夫の娘は、10歳の息子に、一通り、食べるように伝えていました。お祝いスモーブロの席は、子どもが大勢の場での食べ方を学ぶ場でもあるのです。

にしんの料理の次は、鮭の塩糖スパイスマリネ、えびと卵がテーブルに並びます。鮭やえびにはディル、卵には胡椒草をよく合わせます。鮭やえびのスモーブロには、ロブロではなく、別のパンを選ぶと食感や味の変化とともに軽やかさが生まれます。子どもたちは、ある程度、お腹が満たされると、テーブルから離れ、遊びに入ります。子ども達が遊んでいる間、大人は話に花を咲かせながら、ゆっくりと食事を楽しむわけです。

スモーブロを主軸にした食事で気をつけることは、合計で何枚のパンを食べるか、です。合計で何品食べるから、この料理にはこのくらいのパンの大きさで食べよう、と始終調節しながら食べているわけです。そうかといって、1/4以下にカットするとお行儀がよくないように映ることもあります。1/4にカットしないと全部を食べれないかなと思う時は、招待側にそれでもよいか確認するようにしています。そして、お祝いスモーブロは、ナイフとフォークで食べるのも不文律の一つです。

余談になりますが、日本をロブロ行脚させていただく時は、ナイフとフォークが揃わなかったり、ナイフとフォークを使って食べる環境ではなかったりするため、スモーブロをカナッペのように1/4にカットして、ミニサイズのスモーブロに仕立て、手で食べる形をとることがよくあります。デンマークで、ロブロ1/2カットのスモーブロを手で食べるのは、バターだったり、ジャムだったり、チーズをのせたり、平面的なスモーブロのタイプに限ります。少しでも立体的なスモーブロになると、ナイフとフォークで食べます。立食の場合で、手で食べる必要があるときには、１/4カットのミニスモーブロに人気があります。この形だと日本での暮らしでも馴染みやすいかもしれませんね。この投稿では、いくつかのスモーブロを1/4サイズでご紹介してみることにしました。

今回の温かい料理は、魚のフリカデラと豚のローストを選びました。フリカデラはお客様を迎える直前に焼いておいて保温しながら待機させます。魚のフリカデラと切っても切れない関係のレムラードソースは根菜で作っていますが、夏は旬の新にんじんや新玉ねぎ、きゅうりなどを使います。この魚のフリカデラを供するころになると、この料理に目がない子どもたちもテーブルに戻ってきます。そして、再び、大人が会話をたのしんでいる間、遊びの場に戻るのです。白身魚の揚げ焼きにレムラードソースという組み合わせもお魚スモーブロの王道です。我が家のレムラードソースは自家製ですが、チューブ入りのレムラードソースは、日本の家庭の冷蔵庫にマヨネーズが必ず入っているような感覚で、デンマーク家庭の冷蔵庫にたいてい常備されています。大人も子どもも大好きなソースです。

豚のローストは三枚肉を使い、ジューシーに仕上げました。魚のフリカデラを供するころまでに焼き上げ、常温で味を落ち着かせます。この頃になると、お腹がいっぱいになっていることが多いため、パンなしでもおいしい組み合わせを選びます。今回は、紫キャベツの甘酢煮とサラダを用意しました。お腹の具合によって、肉料理の付け合わせを調整するわけです。この料理がテーブルに並ぶと、また子どもたちがテーブルに戻ってきます。

豚料理を食べ終わると、テーブルの皿やカトラリーをすべて下げ、食洗機にかけておきます。そして、皆が会話に花を咲かせている間にロブロのお祝いケーキを組み立てます。ロブロのスポンジ生地とカシスのジャムは前日までに作っておきますが、組み立ては直前に行います。会が始まる直前に組み立てると、生地とジャムのなじみはよくなりますが、カシスの色がホイップした純生クリームに移りがちです。

ロブロのお祝いケーキ用のテーブルセッティングを整えて、誕生日を迎える人の前にケーキをおきます。ここで誕生日の歌を皆で歌い、誕生日を迎える（迎えた）人を祝福します。ケーキに飾られたキャンドルに灯した火を吹き消すというのは、日本でもお馴染みですね。

ロブロのお祝いケーキは、夫の故郷を代表するケーキで、夫の実家でもお祝い事がある度に繰り返し作ってきたそうです。この話は『北欧デンマークのライ麦パンロブロの教科書』でもご紹介しましたが、私が試行錯誤した話など、アンデルセングループへの寄稿では、少し別の角度からご紹介しています。合わせてご高覧くださいね。

ケーキを切り分ける前には、プレゼントを一つずつ開けます。クリスマスプレゼントも同じなのですが、プレゼントに添えられたカードをまず読み、プレゼントを開けて、贈り主にお礼をいいハグや握手をする、この一連の過程は、デンマークらしい文化だと思います。

ケーキを切り分けて楽しみ、そろそろお開きが近づいたかなと思うあたりで、一口菓子を出します。「そろそろお開きですよ」という合図にもなっています。今回は、新年のカウントダウンを行った直後に新年を祝う際にも使うクランセケーエを一口大で作りました。クランセケーエは、アーモンド70%と砂糖のみでできているマジパンと砂糖と卵白で作る焼き菓子で、デンマークでは繁栄を象徴すると言われ、お祝い時に使う伝統がありました。こちらでもご案内していますので、合わせてご覧くださいね。

ここまでの一連の誕生会、13時あたりのスタートでしたが、終わったのは18時前でした。それぞれが家路につくと、夕食を食べる必要はなく、そのまま歯を磨いて、少しだけソファでゆっくりした後、明日から始まる仕事と学校に備えて就寝です。

デンマークの始業は、たいていは8時。家を出るのは７時すぎです。まだまだ暗い朝での出発ですが、あと一月もすると、もう少し日が長くなり、遠い春が、ゆっくりと、でも確実に近づき始めていていることを感じることができます。

文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster