Fastelavnboller 2025
ファステラウンボーラ 2025年
今回は、クリスマスと復活祭の中間あたりの伝統行事「ファステラウン」にちなむパン菓子「ファステラウンボーラ」のおはなしです。尚、ファステラウンボーラは、こちらでもコラムを書いています。合わせてご覧ください。
ファステラウンとは
キリストの再生を祝う復活祭を迎える前の40日間は「四旬節(しじゅんせつ)」と呼ばれています。四旬節は「40日の期間」という意味で、節制と回心に務め、自分の生活をふり返り、復活祭に備えるのだそうです。節制の一つとして動物性食品を避ける粗食が存在します。その四旬節に入る前にバターやクリーム、肉などを楽しむ慣習が生まれ、カーニバル(謝肉祭)などの文化行事として世界的に発展しました。デンマークでは、この四旬節に入る前の節目を「ファステラウン」と呼びます。
デンマークは16世紀にプロテスタントに改宗し、以来、四旬節での粗食も戒律ではなくなりました。しかし、ファステラウンは季節の祝祭として、学校や地域などで、仮装をした子どもが樽叩きを行う行事として今日まで続いています。また、紙で作ったファステラウンに由来するモチーフと一緒に小さな鈴を飾った枯れ枝の束を手にし、丘や野原を走りながら、鈴を辺りに鳴ら響かせて春を呼ぶ行事も存在します。
キリスト教の祭事であるクリスマスが、冬至に行っていた光を崇める伝統行事と融合したように、ファステラウンも、キリスト教に由来する行事が北欧に伝わる春呼び祭りと重なっています。
ファステラウンの日は復活祭と連動するため変動性なのですが、2月中旬から3月上旬までに設定されます。今年2025年のファステラウンは3月2日でした。
ファステラウンボーラとは
ファステラウンに由来するお祝い菓子としてファステラウンボーラが存在します。ファステラウンボーラの「ボーラ」はおひとり様サイズのパン、概して、ミルクやバターが生地に入ったタイプのパンを指します。
その昔、冷涼な気候で小麦の栽培が難しかったデンマークでは、小麦が貴重な食材で、特別な機会に限って使われてきました。ファステラウンには、ハレの日のお祝いとして「ファステラウンボーラ」が焼かれてきたのです。時代とともに変遷しますが、古来、春を迎える前に楽しむパン菓子として皆に愛されてきました。そして、近年、新たな躍進が始まっています。
現在、ファステラウンボーラは、1月中旬あたりからファステラウンの日まで、ベーカリーやパティスリーの店頭に並びます。今年は3月2日でしたので、1か月から1か月半ほど、どの店も大量のファステラウンボーラを販売していたことになります。
後述しますが、ファステラウンボーラには、飾りつけだけではなく、生地にも複数のバリエーションがあります。
ファステラウンボーラの変遷
「ファステラウンボーラ」は、貴重だった小麦をふるって作るという意味で贅沢な、おひとり様サイズの丸パンでした。18世紀にはドライフルーツが入手できるようになり、レーズンなどを加えて甘味を足した形に変遷し、パン菓子の要素を持つようになります。高価な香辛料であるカルダモンを生地に加えるようになったのも、この頃に生まれたお祝いパンを象徴する文化です。
20世紀に入った頃、砂糖やバターが一般にも普及し、おひとり様サイズの丸パンにジャムやカスタードクリームを入れるようになりました。その後、アーモンドと砂糖を2:1で作るアーモンドペースト、マジパンローマッセがフィリングに入るようになります。戦後、ココアで作るアイシングがかかるようになり、現在は、テンパリングしたチョコレートがけも楽しめます。
昔ながらのファステラウンボーラ
ファステラウンボーラには、実にさまざまな種類が存在しますが、甘めで柔らかなパン生地を使うタイプは『昔ながらのファステラウンボーラ』と呼ばれています。お店ではGammeldags fastelavnsbollerと記載され、Gammeldags(ガメルデイズ)は「昔ながらの」を意味します。クリームやジャムを包むスタイルが半世紀以上続きましたが、現在は、マジパンローマッセを包んだパン生地を焼いた後、クリームをたっぷり詰め込むタイプに移行しつつあるようです。
クリームは、カスタードクリームに泡立てた生クリームを合わせたディプロマットクリームが使われています。今年は、クリームを後詰めしたスタイルを多く見かけました。
伝統を重んじていると定評がある、コペンハーゲンで最も古い(1870年創業)のパティスリー「La Glace(ラ・グラース)」の『昔ながらのファステラウンボーラ』にも、今年は後詰めクリームがたっぷり入っていました。
中に大きな空洞があることが特徴だった『昔ながらのファステラウンボーラ』は、その空洞にたっぷりのとろとろクリームを入れることで、ケーキとしての要素が濃くなったように思います。
手作りのカスタードクリームやディプロマットクリームが縁遠くなっている現代の食スタイルで、ファステラウンを迎える前の一ヶ月半ほどの間、クリームがたっぷり入ったパンに人気が集まるのは興味深い現象です。以前は、子どもと一緒に楽しむ菓子パンというイメージだったのですが、クリームがたっぷり入るようになり、大人が競って楽しむというトレンドが生まれています。
シュー生地のファステラウンボーラ
シュー生地は発酵させないので、思い立った時に作れる手軽さがあり、年に一度のお楽しみとして恒例行事にしている家庭を見かけます。焼いたシュー生地を上下に二等分し、中にジャムと柔らかくホイップした生クリームを別々に加えます。近年、このシュー生地をベースにした「ファステラウンボーラ」を用意するパティスリーも出現しています。
デニッシュ生地のファステラウンボーラ
デニッシュ生地を使う「ファステラウンボーラ」は、大きく二種類に分けることができます。
デニッシュ生地を焼き、シュー生地と同じように上下に二等分し、中にジャムや柔らかくホイップした生クリームを入れるタイプと、デニッシュ生地を折りたたんだ後、カスタードクリームもしくはジャムを真ん中に加えて焼き、アイシングで飾ったタイプです。中にくだものを入れ込むこともあります。
一般的なデンマークの人々にとって、デニッシュは自分で作るものではなく、ベーカリーやパティスリーで買うもの。クロワッサンの台頭で、デニッシュは以前ほど種類を見かけることが少なくなり、食スタイルの変遷で食べる機会も少ないのですが、ファステラウンが近づくと、贅沢なデニッシュがお店に並びます。マジパンを加えた生地を使い、しっとり感を出すのが特徴だと伺ったこともありますが、最近はクロワッサン生地での創作が主流です。
近年の動向
ファステラウンボーラの変遷で画期的だったのは、新しい意匠が施された革新的なファステラウンボーラが登場した2020年あたりでしょうか。アンデルセングループのデンマークにある旗艦店ANDERSEN BAKERYが発表した美しいファステラウンボーラは、コロナ禍のステイホームで心の潤いを求めていた人々の注目を浴び、連日、店の前にはデンマークで見たこともない長さの行列ができ、さまざまなメディアで大きく紹介されました。
その後、デンマークで先駆的なベーカリーが競って独自のスタイルのファステラウンボーラを発表、ファステラウンボーラに新しい息吹が吹き込まれました。年々、注目が集まる新作ファステラウンボーラですが、今年は「ファステラウンボーラ・マラソン」というイベントにまで発展しました。コペンハーゲン界隈の10店舗を巡りながらのハーフマラソンが、2025年2月2日に開催されました。ファステラウンボーラの数の関係上、100名限定のイベントでした。
クリスマスの後、春を迎えるまでにバレンタインが存在するものの、日本のようには定着していないデンマークでは、伝統行事に新しい息吹を加える方が消費者に響くのでしょうか。ベーカリーでいつも使う生地に贅沢なバリエーションを加える形だと工程が組みやすく、消費者も季節限定のお菓子として親しみやすいのかもしれません。最近、特にコペンハーゲンでは、クオリティを重視したベーカリーに勢いがあります。その波にのって、ファステラウンという伝統行事に紐付けされたファステラウンボーラに、大人が競って楽しむ贅沢なお菓子としての要素が加わり、新しい文化が育っているようです。
文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster
註)ファステラウンについては、<暮らしごと>と<アンデルセングループ>でもご案内しています。合わせてご覧ください。
ファステラウンの樽叩きイベント
小麦にミルクやバターを加えた生地のお祝いパン「ボーラ」
『昔ながらのファステラウンボーラ』
老舗コンディトライ La Glace (ラ・グラース)2024年版
『昔ながらのファステラウンボーラ』
老舗コンディトライ La Glace (ラ・グラース)2024年版 (カット面)
『昔ながらのファステラウンボーラ』
老舗コンディトライ La Glace (ラ・グラース)2025年版
『昔ながらのファステラウンボーラ』
老舗コンディトライ La Glace (ラ・グラース)2025年版 (カット面)
シュー生地のファステラウンボーラ
デニッシュ生地のファステラウンボーラ ①
デニッシュ生地のファステラウンボーラ ①
リッチなクリームと酸味の強いジャムをはさんだタイプ (カット面)
デニッシュ生地のファステラウンボーラ ②
デニッシュ生地のファステラウンボーラ ②
生地に具材(ここでは、ダイス状のルバーブ)を折り込んでいる (カット面)
新しい流れを牽引したアンデルセンベーカリーのファステラウンボーラ
アンデルセンベーカリーのファステラウンボーラ (カット面)
2025年ファステラウンボーラいろいろ



































