Smagen af forsommer

初夏のおいしさ

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6月は日照時間が一年で最も長くなり、明るさに包まれた日々が続きます。北欧諸国の最南に位置するデンマークは、夜11時頃に、一旦、陽が沈みますが、真っ暗な夜を迎えることは少なく、薄暗い状態からそのまま朝を迎えます。朝はどんなに早く起きても、太陽はもっと早起きで、すっきりと明るい朝が待っています。天気の良い日には、日中30度近くまで気温が上がりますが、カラッとした気持ちよい天気のことが多く、午後になると水辺でのひとときを楽しむ人々を多く見かけます。夜の9時くらいから11時近くまで数時間に渡る夕焼けが楽しめるのも、夏ならでは。長く暗い湿った冬を耐え忍んだご褒美のような北欧の美しく抒情的な風景です。

6月下旬には学年末が重なり、卒業の打ち上げやお祝いで、国中が高揚感と開放感に包まれます。今年はサッカー欧州選手権が開催されているので、賑やかさに拍車がかかっています。学校の夏休みは7週間が一般的ですが、就労者も7月から8月の間に三週間以上の休暇をまとめてとる権利が保障されているため、6月は仕事納めの月で年度末的な雰囲気が漂います。

デンマークでは、クリスマスを迎える12月に様々な食べごとが伝統行事として受け継がれていますが、対極となる夏至の頃には初夏のおいしさが満載で、受け継がれている食べごとも沢山です。

5月中旬辺りから収穫が始まるアスパラガスは、6月に旬を迎えます。アスパラガスは、翌年の収穫まで力を蓄えるために夏至以降の収穫をしない慣わしです。霜が降りる前までに100日ほどの休息が必要とか。地野菜としてのアスパラガスは、一ヶ月だけの贅沢な食材です。スープにしたり、サラダに加えたり、グリル料理にしたり、さまざまな楽しみ方がありますが、さっと茹でたアスパラガスをオランデーズソースと呼ばれる温かいバターベースのソースで食べる方法はデンマークでの王道です。この季節に旬を迎えるバルト海老との組み合わせは、普段、菜食メインの我が家でも一年の一度の楽しみとして食卓を飾ります。

バルト海老は新鮮なもの殻つきでをさっと塩ゆでするのですが、とても小さな海老なので、殻を剥くのに気が遠くなるほどの手間がかかります。塩茹でにしたバルト海老は、アスパラガスと組み合わせたり、サラダを飾る食材としても使えますが、発酵バターを塗った高加水のサワードゥブレッドと一緒にオープンサンドイッチとして楽しむ形は「バルト海老ごはん」と呼ばれ、バルト海老の旨味をストレートに味わう醍醐味があります。そのシンプルな組み合わせのおいしさは、新米と吟味した素材を使った「うにご飯」や「いくらの軍艦巻き」などに通じるものがあるように思います。

「新じゃが」も初夏に入ると地物が入手できます。25年以上も前の話ですが、料理上手のおばあさんと食材の買い出しに出かけた際、おばあさんが小粒のじゃがいもを丁寧に選んで袋に入れていることに気づき、その理由を尋ねたら「新じゃがは、小粒のものをさっと茹でると一番おいしいし、とてもヒュッゲだからよ。」という答えが返ってきました。小さなじゃがいももヒュッゲなのか・・と驚いた記憶があります。新じゃがは、掘り立てのものだと、さっとなでるだけで皮がするっと剥けますが、小粒だと手間がかかります。しかし、ちょうどよい加減に塩茹でにした小粒の新じゃがには、ナッツのような甘味や旨味があり、格別の味わいです。この時期の新じゃがを茹でるときには、ちょうどよい茹で加減を見極めるため、真剣に鍋の前に立っています。頃合いよく茹でた新じゃがは、溶かしバターを絡めて楽しみます。

新じゃがの収穫が近づく頃、エルダーベリー(西洋にわとこ)の花「エルダーフラワー」が咲き始めます。初夏を象徴するこの花は、クリーム色の小さな花があじさいの花のように集まった花序で、マスカットのような甘い香りが特徴です。さまざまな薬用効能が認められているため、古来、ハーブティーなどの形で民間薬として活用されてきました。花の香りと蜜を抽出したシロップを水で希釈して、喉の渇きを癒すシロップジュースは、子どもだけでなく大人も大好きな飲みものです。エルダーフラワーやエルダーフラワー・シロップをスイーツや料理に使い、初夏の演出を楽しむこともできます。

エルダーフラワーのシロップジュースには、忘れられない思い出があります。20年以上前の暑い日、切り絵作家のソニア・ブランデスさんの家をお訪ねした際、よく冷えたエルダーフラワーのシロップジュースで迎えてくださいました。とてもおいしいお手製のシロップジュースだったのですが、冷たく冷やしたグラスにエルダーベリーの花が入った氷を浮かべてくださっていて、その素敵な演出にとても感銘を受けました。

エルダーフラワーが咲き始める頃、苺の赤みも増してきます。今年は初夏の訪れが遅く、エルダーフラワーも6月中旬を過ぎてから、ようやく咲き始めました。6月初旬の息子の誕生日には、たいてい初収穫の苺を数粒、お祝い膳に添えることができるのですが、今年の初収穫は6月下旬でした。

デンマークの初夏は苺を楽しむ季節です。ベリー類は北欧の夏の象徴ですが、苺は最初に楽しむことができるベリーです。摘み立ての苺はそのままで十分おいしいのですが、フレッシュな生クリームをかけると、ご馳走感がアップします。苺の甘味や酸味がまったりした生クリームで引き立ち、絶妙な相性です。独身時代、数々のお宅にお招きいただいていた頃、この組み合わせを、食後のデザートとして、午後のおやつとして、さまざまな場面で出していただきました。もう一つの王道は「苺ごはん」。朝ごはんやおやつに摘みたての苺をバターをたっぷり塗った手作りパンやサワードゥブレッドにこんもりと持った一品は、初夏ならではの楽しみです。どちらもシンプルな組み合わせですが、デンマークの初夏の美味しさをストレートに味わうことができます。

苺がたくさん収穫できる季節には、朝ごはんに作るオートミール粥やライ麦パン粥、発酵乳などのトッピングとしても楽しめます。そして、暑い日の3時のおやつや暮れない夏の夕べには、バターミルクのスイーツ・スープのトッピングとしても活躍します。卵白と砂糖をしっかり泡立てた生地を低温で焼いたメレンゲに、カスタード風味のクリームをのせて、苺を飾った「鳥の巣」と呼ばれるスイーツは、初夏のデザートとしてお出しすることが多いのですが、お迎えするお客様に必ず喜んでいただける嬉しい一品。また、ジェノワーズ生地のスポンジケーキにホイップした生クリームとフレッシュな苺を飾ったシンプルなケーキは、デンマークらしい初夏のスイーツです。

今回は、デンマークで夏によく作られる非加熱のカスタード風味クリームのレシピをご紹介します。火を使わないので、簡単に作れます。ベリー類と相性は抜群ですが、桃やすももでもおいしくお召し上がりいただけると思います。前回ご紹介したルバーブのコンポートと組み合わせても特別感が加わります。ぜひお試しになってみてください。


非加熱カスタード風味クリーム 


材料

  • 卵黄 1個分

  • バニラビーンズ 1/2鞘分(もしくは、バニラパウダー小さじ 1/4)

  • 砂糖[*1] 小さじ2

  • 純生クリーム[*2]120 ml・・・よく冷やしておく


作り方

1.  ボウルに卵黄、バニラビーンズ、砂糖を入れ、白っぽくなるまでしっかり泡立てる。[*3]

2.      別のボウルでよく冷えた生クリームを8分立てに泡立てる。[*4]

3.      1と2を、さっくり混ぜる。[*5]


NOTE:

*1 私はきび砂糖を使っています。

*2 生乳の乳脂肪のみを原料とした「純生クリーム」は、高めの値段で消費期限も短いのですが、保存料や安定剤が一切使用されておらず、口溶けや口当たりが良く、クリーム本来の風味が味わえます。

*3 ハンドミキサーで数分もったりするまで泡立てると、おいしく仕上がります。

*4 生クリームを入れたボウルを氷水を入れたボウルの上に重ねて泡立てると、きれいに仕上がります。「8分立て」は、生クリームが柔らかく泡立ち、すくい上げるとポタリと落ちる状態です。

*5 作りたてをお召し上がりください。

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