Rød grød med fløde

赤いベリーのさっと煮

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8月に入り、デンマークでは晩夏の空気が漂い始めました。日中は、夏らしく明るい気候ですが、深夜近くまで薄暗かった夜も10時前には暗くなり、朝5時辺りまで夜の闇が覆うようになりました。郊外では麦が収穫の時期を迎え、遊歩道の藪ではブラックベリーが色づき始めています。

今年は夏の到来が遅かったため、我が家の家庭菜園のいちごは、従来の6月上旬から二週間あまり遅れての収穫でしたが、7月に入ると晴天が続き、丸すぐり、ラズベリー、赤すぐり、黒すぐりの順にベリー類が甘く熟していきました。ベリー類、特に、すぐり類の低木は「家庭菜園」の常連で、野菜のように手をかけなくても、毎年、安定した量が収穫できます。我が家でも、今月初めに、たわわに実ったすぐり類を収穫しました。

すぐり類は、丸すぐり、赤すぐり、黒すぐりが定番の品種です。丸すぐりはグースベリー、赤すぐりはレッドカラント、グロゼイユ、黒すぐりはブラックカラント、カシスとも呼ばれています。丸すぐりには赤と緑の品種があり、赤すぐりの亜種として白すぐりも存在します。どれも「すぐり」の仲間ですが、それぞれに個性があります。

いちごが旬を迎えると、摘みたてを毎日少しずつ楽しみますが、すぐりの仲間は一度にかなりの量が収穫できるので、冷蔵庫や冷凍庫で保存します。砂糖を加えてジャムやコンポートにするのも一手段。また、今回ご紹介する「さっと煮」を作り置くと、一週間近く楽しめます。

誠文堂新光社刊の「北欧料理大全」(カトリーネ・クリンケン著)で「赤いベリーのコンポート」としてご紹介したデザート「RØD GRØD MED FLØDE」も「さっと煮」の仲間で、家庭の菜園で熟れたベリーを楽しむ夏らしい一品です。かつてデンマーク領だったこともあり共通した文化を持つドイツ北部、そして、スカンジナビア半島諸国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)にもよく似たベリーのデザートが存在します。

「RØD GRØD MED FLØDE」は、難しい発音が続く名称としても有名です。「北欧料理大全」では『ロド・ゴロ・メ・フルーデ』と表記しましたが、せっかくの機会なので、ネイティブの発音を下記にご紹介します。(私は今も深呼吸してから発音します。)

デンマークで暮らすようになって30年近くの年月が経ちましたが、デンマークの人々が半ば嬉しそうに「デンマーク語は世界で一番難しい言語」だと教えてくれる場面や、「この言葉を言ってみてごらん」と自らが発音し、相手が目を白黒させながらその発音を試みている様子を興味津々の顔つきで眺める光景には、頻繁に遭遇しました。自分たちにとって、ごくあたりまえの発音が、外国人にはこんなに難しんだと感じることが不思議であり、興味深いのだそうです。

「RØD GRØD MED FLØDE」を直訳すると「赤い粥に生クリーム」です。GRØDは粥という意味ですが、ここで使われるGRØDは、米や麦のお粥ではなく、粥状の水分ととろみを持つくだものを煮たものを指します。

「赤いベリーのさっと煮」は、7月に太陽をいっぱいに浴びた名残の甘いいちごとようやく熟れ始めたすぐり類とラズベリーで作る組み合わせが代表的です。真っ赤に仕上がらなくなってしまうのですが、黒すぐりを加えると、驚くほど味や香りに深みが出ます。8月に入ると、いちごがさくらんぼに代わり、8月下旬には完熟のブラックベリーが加わります。旬のベリーを組み合わせれば、どれもが「赤いベリーのさっと煮」になります。庭で採れるさまざまなベリーの協奏曲のような「赤いベリーのさっと煮」は、世代を重ねて繰り返し作り続けられている素朴で伝統的なデザートです。デンマーク人の夫は、片田舎の大きな森が傍にある小さな家で育ちましたが、庭の菜園にはすぐり類もたくさんあったようで、朝摘みのベリーで作って冷ましておいた「さっと煮」を、じゃがいもがつけ合わせの温かい食事の後に出してもらえるのが楽しみだったと聞きました。しぼりたてのミルクが近くの農場からアルミ缶で配達されていた60年以上前の話なのですが、フレッシュなミルクの上澄みとなっている生クリームをそっとすくって、「さっと煮」にかけて食べることも子ども時代の楽しみだったようです。クリームを加えると甘酸っぱいスープにまろやかさが加わります。

「赤いベリーのさっと煮」は北欧の夏を代表する味覚ですが、夏の楽しい思い出にもつながるため、このデザートそのものが「ヒュッゲ」だと感じる人は多いように思います。デンマークの人々が愛してやまない国旗と同じ色、赤と白の組み合わせだから愛着が深いという説もあります。

「赤いベリーのさっと煮」は、大きく分けて二種類の方法で作れます。伝統的な方法では、まず、すぐりのシロップを作り、そのシロップで数種類のベリーをさっと煮て、とろみをつけます。シロップ作りは、庭でたわわに実ったすぐり類を効率的に保存する暮らしの知恵です。もう一つの方法は、ベリー類を少量の水でさっと煮て、とろみをつけた後、砂糖を加える方法です。この方法だとシロップを使わなくても作れますし、ベリーが含んでいる水分を引き出しながら煮るので、濃厚な味が楽しめます。砂糖の量はベリーの種類や熟し加減で様子をみますが、基本的にはベリーの重量の10〜20%と覚えておくとよいでしょう。

ベリー類をさっと加熱すると、それぞれの個性が引き立ちます。フレッシュなベリーが簡単に手に入らない場合、冷凍ミックスベリーでもおいしく作れます。三種類以上のベリーが合わせると味に深みが出るように思いますが、いちごだけなど一種類のベリーでも作れます。

いずれも、ベリーの形ができるだけ残るように、そっとさっと煮るのがコツ。全体に火が通ったら、水溶き片栗粉でほんの少しとろみをつけ、常温まで冷まします。伝統的には、ベリーの重量の30〜40%の砂糖を使うようですが、我が家では、10〜15%前後のきび砂糖で酸味をしっかりと感じる甘さに仕上げています。デンマークでは、「さっと煮」に生クリームをかけるのが定番ですが、クリームをどのくらい加えるかに好みが左右するので、食卓にクリームを入れたピッチャーを用意し、それぞれに好みの量を加えてもらうようにしています。

この「さっと煮」を冷蔵庫に常備しておくと、ヨーグルトやオートミール粥や麦粥のトッピングとして朝ごはんやおやつに重宝します。日本では焼き魚に大根おろしを添えますが、北欧では、焼いた魚やハンバーグのような肉料理にベリーの「さっと煮」を付け合わる伝統があります。日本の夏だと「さっと煮」をよく冷やして、クリームの代わりに冷たい白玉団子や寒天を添えてお召し上がりになると喉越しよくお楽しみいただけるかもしれませんね。簡単なので、ぜひお試しになってみてください。


赤いベリーのさっと煮 


材料

  • 冷凍ベリーミックス  250g[*1]

  • 水 100㏄

  • (お好みで)シナモン・パウダー小さじ¼ もしくは バニラ鞘 ¼本分(バニラパウダーの場合、小さじ¼)

  • 片栗粉 大さじ1

  • 砂糖 25〜30 g[*2]

  • (お好みで)純生クリーム 適量[*3]


作り方

1.  冷凍ベリーと水を小鍋に入れ、お好みで香辛料を加えて、強めの中火で火にかける。

2. 沸々してきたら火を弱め、1分を目安に全体に火が通るまでさっと煮る。

3.  同量の水で溶いた片栗粉をかき混ぜながら加える。

4.  とろみが出たら火を止め、砂糖を加える。[*4]

5.  ガラスの保存容器などに入れて常温まで冷まし、冷蔵庫で保存する。[*5]

6. 食卓でそれぞれに好みの量のクリームをかける。


NOTE:

*1 3種類以上のミックスベリーをお使いになると、味に深みが出ますが、一種類のベリーでもおいしく作れます。

*2  お好みの甘さに調節してください。私はきび砂糖を使いますが、はちみつでもおいしく作れます。はちみつを加える場合は、はちみつの効能を活かすため、常温になってから加えるようにしています。

*3 生乳の乳脂肪のみを原料とした「純生クリーム」は、高めの値段で消費期限も短いのですが、保存料や安定剤が一切使用されておらず、口溶けや口当たりが良く、クリーム本来の風味が味わえます。

*4 まず、ベリーの上量の10%にあたる25 gを加えた上で、お好みの甘さに加減ください。

*5 表面に砂糖をまぶしておくと表面に発生する膜を防ぐことができます。



写真撮影: Jan Oster

<ご案内>
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