Ovnbagte blommer & granola
オーブン焼きプラム & グラノーラ
春に可憐な白い花を咲かせ、芳しい香りを放っていたさんざしが赤い実を結ぶと、秋の到来を感じます。10月に入ると葉が赤や黄に染まった後に落ちてゆきますが、9月は緑の葉と赤い実の色調で、夏の名残を留めています。
8月下旬にブラックベリーが甘く熟す頃、「ミラベル」と呼ばれる小粒のプラムが実り始めます。ブラックベリーは晩夏を象徴するベリーですが、プラムは旬が9月下旬まで続くため、初秋を告げるくだものです。ミラベルはブラックベリーと同じように遊歩道や自然保護区域などに自生していることが多い野生種で、ジョギングや散歩の途中、熟れた実をいくつか口に入れるのは、ちょっとした楽しみです。店頭に並ぶプラムはミラベルよりも大きな粒の品種で、9月に入ると地物が入手できます。デンマーク産のプラムは南欧から運ばれてくるプラムよりも小さいのですが、濃厚な味が魅力的。
プラムはそのまま食べても美味しいのですが、加熱すると甘味と酸味が強くなり、プラム独特の個性を満喫できます。少量の砂糖と一緒に鍋で蒸し煮にしてもおいしいのですが、形が崩れやすいのが難点。オーブンで焼くとプラムの形を残したまま凝縮したおいしさが楽しめます。
デンマークのキッチンに必ずあるもので日本との違いを感じるのはオーブンの存在。デンマークで竈の役割を持った鋳鉄ストーブが一般に普及したのは19世紀。元々、台所に備えられていた暖をとったり煮炊きをするスペースに鋳鉄ストーブが置かれるようになりました。このストーブは、日本の竈のように羽釜を入れ込むのではなく、ストーブ内部の半分が薪をくべるスペースになっており、そこを火元としてストーブの上部で煮炊きし、火元の隣がオーブンという形が一般的でした。調理だけでなく暖をとる道具という観点で、鋳鉄ストーブは囲炉裏のような役割を持っていたのです。時代とともに薪がガス、そして、電気に変遷しましたが、一般家庭にオーブンが普及したのは100年以上前なので、オーブン料理の歴史にも年季が入っています。オーブンでは揚げ物のように俊速で火を通すことはできませんが、じっくり柔らかく火を通すことが得意。煮込みやオーブン焼きなど、30〜40分あまり、その場から離れていても大丈夫という料理なども忙しい毎日に欠かせない調理法です。
デンマークでは核家族が標準で、大半の両親はフルタイム勤務です。また、くつろぎや遊びを含めた生涯に渡る学習が一般化しており、仕事をしながら、次のステップに繋がる学びやリフレッシュのための学びを続ける人が多い社会です。仕事、学び、遊びの時間を手に入れるためのキーワードは「効率性」。「ヒュッゲ」という概念が生活の根幹となっているデンマークでの暮らしですが、「効率性」を高めることで生まれる時間と気持ちの余裕でヒュッゲを楽しむという形が方程式になっているように思います。ヒュッゲを楽しむことで気持ちをリフレッシュしたり幸せ感が高まる、そんな関係を感じます。デンマークでの「ヒュッゲ」や「ヒュッゲ」によってもたらされる幸せ感は、日々の効率性が土台になっているのかもしれません。
デンマークの夕食は18時が定番。家族揃って食卓を囲みます。もちろん、レストランのスタッフ、看護師さんや運転手さんなど、この時間帯に勤務している人はいるのですが、一般的な会社員が残業で家に帰れないという環境はほぼ皆無です。8時間労働と8時間のプライベートタイム、8時間の睡眠を確約するという労働法が既に100年前に制定された国らしい基盤です。友人や親族と食卓を囲むのは次の日に仕事がない金曜日や土曜日の夜、もしくは土曜日・日曜日の午後というパターンが多く、平日の夕食は一緒に暮らしている家族が揃って食卓を囲むひとときという位置付けです。
仕事から帰ってきて夕食の支度に使う時間は平均30分、ワンプレート料理が主流です。タンパク源の食材で一品、じゃがいもや穀類を使って一品、野菜料理を一品、そしてソースかドレッシングを添える形が基本。スピード料理として、パスタやスープが存在します。そして、オーブン料理は時間的な余裕を生んでくれる頼もしい助っ人。一般への普及から100年以上経つせいか、オーブンはたいていの家に設置されています。今でも「コンロ」と言うと、鍋などで調理できる熱源の下がオーブンという形が標準です。オーブンがレンジの機能を備えているものを選ぶ家庭はあると思いますが、オーブンあっての電子レンジという位置付けは、日本と大きく違う点だと思います。時間はかかりますが、温めるのもオーブンを使うことが多いように思います。また、整然としたカウンタートップを好むデンマーク人の嗜好には、電子レンジは邪魔な存在なのかもしれません。例外は高齢者用の宅配食事サービス。安全のために電子レンジを使って食事を温める方法が採用されているため、高齢者のお宅では、電子レンジが標準化していると聞きます。調理済みのパーツを組み合わせたり、短い調理時間で作れる材料を揃えた食材配達サービスは、忙しい毎日を送る家庭で人気がありますが、フライパンと鍋、オーブン、ボウルを使うレシピが主流です。
オーブン料理はいろいろありますが、塊肉をゆっくり煮込んだり焼いたりする料理は時間的に余裕のある週末の料理で、平日は、フライパンで肉や魚の料理を調理する傍ら、根菜やじゃがいもを好みの大きさに切って、少量の油を塩をまぶし、オーブンでじっくり焼くという手法がよく使われています。オーブンで焼く野菜は、野菜の苦手な子どもでも食べやすいと言われ、子どもがいる家庭で頻繁に用意される一品です。
オーブン焼きは、くだものにも応用できます。初秋に楽しめるのは、プラムのオーブン焼き。食事の前に半割りのプラムに砂糖をまぶしてオーブンに入れておくと食事を食べ終わった頃に、おいしそうなオーブン焼きが仕上がっている塩梅です。ふんわり泡立てた生クリームや上質のアイスクリームを少し添えれば、できあがり。水切りヨーグルトもお薦めです。金曜日や土曜日の夜、少し特別感を演出する時などに重宝します。気軽におうちデザートを楽しむ・・・デンマークらしいヒュッゲな情景です。
くだものをオーブンで焼くと果肉が柔らかくなるので、グラノーラのようなポリポリしたトッピングで飾ると食感に変化が出ます。オートミールにお好みの甘味料と油脂を加えてローストしたグラノーラは、天板一枚分を作っておくと、朝ごはんやおやつにも重宝します。ちょっと変わった「常備菜」ですね。市販品がたくさん出ているようですが、簡単にオーブンで作れます。種子やドライフルーツなどを加えると味や食感に変化が出て楽しいし、甘味料の量を調節してお好みの甘さに仕上げることも簡単です。くだもののコンポートに添えるだけではなく、ヨーグルトのトッピングとしても使えます。市販のシリアルよりもヘルシーなのも嬉しいですね。デンマークでの朝ごはんの定番オートミール粥にもトッピングできます。
グラノーラは、プラムをオーブンで焼くとき一緒に焼くと、ほぼ同時に仕上がります。簡単なので、ぜひお試しになってみてください。
オーブン焼きプラム & グラノーラ
材料
<オーブン焼きプラム>
プラム お好みの量
砂糖[*1] プラムの重量の5〜10%[*2]
<グラノーラ>
◯オートミール 100 g
◯アーモンド[*3] 40 g
◯パンプキンシード[*4]20 g
◯シナモンもしくはカルダモン・パウダー 小さじ¼
(お好みで)
◯自然塩 ひとつまみ
△EXオリーブオイル[*5]大さじ2
△りんごジュース[*6]大さじ2
△メープルシロップ[*7]大さじ2
レーズン[*8] 適量(ひとつかみ分)
作り方
<プラムのオーブン焼き>
1. オーブンを170〜180度に予熱する。
2. プラムを縦半分に割り、種を除く。
3. 耐熱皿に皮目を下にして並べ、全体に砂糖をまぶす。
4. オーブンに入れ、30分くらいを目安にして、好みに合わせて焼く。
<グラノーラ>
1. ボウルに◯の材料を入れ混ぜる。
2. 小さめのボウルに△を入れて混ぜ、1.に加える。
3. 全体がなじむまで混ぜ、バットに重ならないように広げる。
4. 予熱したオーブンに入れ、30分を目安にきつね色になるまで焼く。途中、15分くらい経った段階で、全体を混ぜるときれいに仕上がる。
5. おいしそうな焼き色がついたら、オーブンから取り出し、温かいうちにレーズンを加える。
6. 完全に熱がとれてから保存容器に入れて保管する。油脂が加わっているので、ガラス瓶がお薦め。
NOTE:
*1 精製度の低いきび砂糖を使っています。
*2 お好みの甘さに調節してくださいね。私は、アイスクリームを添える時には砂糖の量を控えています。砂糖を控えておくと、必要に応じて、蜂蜜やメープルシロップで甘味を足すことができますね。
*3 既に素焼きしてある無塩アーモンドをお使いの場合は、レーズンを加える時に一緒に加えてくださいね。アーモンドは、胡桃やその他のナッツで代用できます。
*4 パンプキンシードはひまわりの種を混ぜたり、代用ができます。
*5 低温圧搾の菜種油や太白ごま油でもおいしく作れます。発酵バターやココナッツオイルでも作れますが、その場合は、予め溶かしてから他の材料に加えてください。
*6 低温圧搾の天然ジュースを使っています。ストレートジュースをお勧めしますが、濃縮還元でも大丈夫です。ぜひ100%果汁のジュースを使ってくださいね。
*7 はちみつ、アガベシロップ、麦芽糖、甘酒など、お好みの甘味料で代用できます。
*8 お好みのドライフルーツで代用できます。ドライいちじくなど、大きめのドライフルーツは、レーズンくらいの大きさにカットすると馴染みがよくなります。
写真撮影: Jan Oster
<ご案内>
掲載写真はInstagram アカウント@sachikokuramoto.dkでもご紹介しています。フォローで応援してくださると嬉しいです。