Høsten
収穫の季節
デンマークの8月は、北欧独特の気持ちよい穏やかな晩夏と清涼な初秋が賑やかに入り混じる月です。
日中は気温が25°近くまで上がることもありますが、朝夕は15°前後、天気がよくない日は、20°を超えないままで一日が過ぎてゆきます。夏休み前、目覚まし時計が鳴る5時にはすっかり明るくなっていた空も、8月末の朝5時は夜が白み始める時間帯となり、風はすっかり秋の気配を漂わせています。
デンマークの学校では8月中旬に7週間の夏休みが終わり、新学年が始まりました。「新学期」ではなく「新学年」です。デンマークの夏休みは学年末の後にやってくる日本の春休みのような位置付けで、宿題はありません。夏休みに、学校生活や学校の課題からすっかり離れて明るく爽やかな気候を楽しむことは、心身をリフレッシュさせるため、そして暗くて寒い冬を元気で乗り越えるためにとても重要だと考えられています。一日中、パジャマで過ごしたり、好きなことばかりしたり、はたまた、何も考えなかったり、退屈したりすることは、子どもの成長にとても大切なのだとか・・・。「夏休みの規則正しい生活」とはずいぶん違いますね。
学校が始まると、国中に漂っていた夏休みモードは消えてしまいますが、天気がよい日には、名残の夏を惜しむように楽しむ人をよく見かけます。コペンハーゲン市内でも、日光浴やボート周遊を楽しむ人々で賑わいます。
8月下旬になると収穫の季節に入ります。郊外では、刈り入れた麦のブロックが積んである光景をあちこちで見かけます。立派に育ったとうもろこしも収穫も始まりました。北に位置するデンマークでは、トマトを温室で育てることが一般的で、イタリアなどの灼熱の太陽の元で育つ逞しくて力強いトマトとは異なりますが、北の国独特の凝縮された甘味を感じます。店に並ぶ野菜も国産が大半となり、いんげん、ズッキーニ、カリフラワー、キャベツ、かぼちゃ、セロリ、フェンネル、不断草、ほうれん草など、さまざまな野菜が収穫されています。ベリーの収穫は夏の象徴でしたが、野菜の収穫は本格的な収穫期が始まったことを意味します。
開放感いっぱいの夏休みの後に始まる「新学年」は、小学校に上がる子ども達だけではなく、どの学年の子どもにとっても楽しみです。息子が通う学校では、8年生と9年生が「卒業準備学年」と位置付けれ、この夏、8年生に進んだ息子のクラスでも、今までの「子ども」としての扱いに終止符が打たれます。教師の位置付けは学びのお手本という立場から支援する立場に代わり、課題も自分で進めていく形に重点がおかれます。今までと異なる扱いに戸惑いと責任を感じながらも、やはり新学年の嬉しさ、そして、新しいことへの挑戦という嬉しさが先立つようです。
息子が通ってきたシュタイナー教育機関では、収穫の季節である8月下旬にそれぞれの年齢に合わせた農場体験が組み込まれています。太陽と土のめぐみがお百姓さんの力を借りて実るというプロセスは、とても身近で大切に考えられているように感じます。8年生で取り組む最初のテーマは「オーガニック」。一週間ほどテーマに関する理論を学んだ後、次の一週間、農場で野宿をしながら、農作業を手伝い、食事を自分たちで用意し、夜はキャンプファイヤーをして過ごすという日々を過ごしました。今週は、テーマ最後の三週間目となり、まとめの授業が行われています。
25ヘクタールという平均的な農場の10分の1の敷地を持つ小規模のオーガニック農場では、複数の家族が農業に携わり、バイオダイバシティ(生物の多様性)と自給自足が重視されていました。自給自足のため、多様な野菜が育てられ、雑草も大切にされ、牛と馬と羊と鶏が飼われている環境は、生態の循環を学ぶためにはうってつけだったようです。
通常、大人5名で半日かかる玉ねぎの収穫が、25名の生徒によって30分で終わったこと、じゃがいもは、2時間で500キロを収穫したことなども大きな体験でした。そして、畑の大切な肥料である牛糞を運ぶ作業、産みたての卵を集める作業、そして、羊の毛を刈る作業や鶏を絞めたり捌いたりする作業などにも参加。毎日の野宿と屋内には納屋への出入りのみという生活、農場では25名が毎日シャワーを浴びる水量が確保できないため、4キロ離れた湖に行って水浴した話など、現代の恵まれた住環境で育っている子どもたちには深い思い出になりそうです。
デンマークでは、毎年、9月の最初の週末に、全国各地のオーガニック農場で収穫祭が開催されます。去年はコロナ感染規制で中止となりましたが、今年は無事に開催できるようなので、それぞれの農場でのイベントや採りたての野菜やくだものが楽しみです。