Forårssang
春の歌
デンマークでは、5月に入ると柔らかい新芽が木々を飾り、鳥のさえずりが楽しめます。柔らかい新芽が若葉に育つまでの期間、寒の戻りを繰り返し迎えるため、デンマークの春はゆっくりと到来します。年によっては、やっと春めいてきたと思ったら、二週間もしないうちに初夏になってしまうこともあります。
柔らかい新芽は独特の淡い萌黄色が美しく、大きな木には繊細なレースのようにまとわりつき、新芽の間から透けるように差し込む日差しには、春独特の透明感があるように感じます。小さな新芽が若葉に育つ間の数週間、南の国で越冬していた鳥も戻ってくるので、さまざまな鳥のさえずりが楽しめます。また、小さな鳥は緑が鮮やかになってくると葉に隠れて見えなくなってしまいますが、新芽のうちは目に留まりやすいため、鳥のさえずりを楽しむだけでなく、囀っている鳥を探す楽しみもあります。
若葉が目に眩しい季節、気持ちの良い天気に恵まれると、待ち構えていたかのように、緑の豊かな公園や遊歩道で散歩や芝生で暖かい光を楽しむ人が多くなります。まだまだ温かい飲み物や防寒用の毛布が必需品ですが、評判のベーカリーでおいしいクロワッサンやデニッシュとコーヒーをテイクアウトして芝生でゆっくりとしたひとときを楽しんでいる人々を見かけると気持ちが和みます。
暖かい光を味わいながら少しの時間でもゆっくりしたひとときを持つと、心身に新しいエネルギーが宿ると言われているのですが、高い緯度に位置する土地柄か、太陽のめぐみにはとても敏感で、時間を惜しむように外でのひとときを慈しむ傾向があります。外で楽しむひとときはデンマークで多くの人々の定番とも言えるヒュッゲ・スタイルですが、あながち侮れないマインドフルネス的な要素を含んでいるように思います。
この季節、お天気に恵まれた日は気温が15℃前後になり、芝生やテラス、ベランダなどの屋外で気持ちよく過ごせる時間が長くなります。家族や友人との会話だけではなく、読書や食事を外で楽しむことも、これから夏に向けての楽しみです。
息子が通うシュタイナー学校では、毎朝に開かれる朝の会で全校生徒が集まり全員で季節の歌を一週間交代で歌います。この季節に選ばれる歌の一つで、デンマークの春を象徴する歌は、モーツアルト作曲の『春への憧れ』です。
ドイツ・リューベック市の市長も務めた詩人クリスチャン・オーヴァベックが学生の時に書いた作品が原詩となっていますが、デンマーク語に訳された際、作曲者モーツアルトの意向が汲まれドイツ語の詩に変更が加えられました。合唱がいろいろな場面に登場するデンマークでは、5月になると必ず歌われる国民的な愛唱歌となっています。『春よ、来い』で謳われている春を待ち望む気持ちのヨーロッパ北部版とも言えるかもしれません。日本でも『五月の歌』として、小学校の音楽教科書に掲載されていたようですので、ご存知の方も多いかと思います。下記にデンマーク語の歌詞を翻訳してみました。デンマークでの春の喜びを感じていただければ嬉しいです。
来たれ、愛しく優しい5月よ。
森に緑を芽吹かせておくれ。
小川や泉の辺りに
スミレの花を咲かせておくれ。
今年もスミレを
どんなに見たいことだろう。
ああ、5月よ!
今年も野原を
どんなに歩きたいだろう。