デンマークの暮らしとヒュッゲ
2020年2月
立春は冬至と春分のちょうど真ん中に位置し、暦の上では春の始まりと言われます。デンマークでも、遠い春の訪れを感じ始めるのは、ちょうど立春の頃になります。ただ、平均気温が最も低いのは2月初旬なので、 実際には春とは名ばかりの寒い日が続きます。
しかし、冬至の頃と大きく異なるのは日照時間です。冬至の頃に比べると、一日がずいぶん明るくなっています。通勤・通学時間に「蒼い刻」を楽しめた1月とも異なり、2 月の朝は明るく澄みきっていて、本格的な春までには2ヶ月近くもあるにもかかわらず、春の足音を感じます。そして、2 月の空気が1 月ほど湿っぽくなく、冷たいけれどすっきりしているのも嬉しく感じます。
この時期の喜びは、⻩花節分草(キバナセツブンソウ)を見つけることです。⻩花節分草は、デンマーク の春の訪れを真っ先に告げてくれる、親指の爪よりも小さな球根花です。硬く冷たい地面から顔を覗かせたばか りの頃は、珠のような蕾ですが、陽があたると愛らしい花が開きます。群生していることが多いので、 毎年咲く場所が決まっていて、ここではそろそろ顔を覗かせているかな、とか、あそこでは花が咲いているかなと、過去の記憶を手繰り寄せて、散歩がてら今年の開花の様子をあちこちと確認していくのは、春の息吹を感じるひととき。可愛らしい花を見つける度に思わず微笑みがこぼれます。
明るく澄んだ週末の朝、少しゆっくりと起きて、冷たい風をきって散歩をしながらお気に入りのカフェで朝食をとるひとときも、2 月らしいヒュッゲだと思います。カフェでの朝食は都会らしい朝の楽しみ方ですが、小さな子どもを持つ家族が舌鼓を打ちながら過ごすゆっくりした朝のひとときや、3世代が一同に介する楽しいブランチなど、食事を介した朝の楽しみ方もデンマークらしいように感じます。食事の支度にかける時間の代わりに、お気に入りのカ フェで家族との繋がりを確認するひとときを過ごす・・・そんな情景を目にすると、こちらもヒュッ ゲのお裾分けを預かった気分になります。ちょっとした良質なひとときを作ることは、心の活力を漲らせる源になりますね。
デンマークでは、2 月半ばに一週間ほどの「冬休み」をとることが一般的で、学校や幼稚園にも冬休みがあります(*)。冬休みはスキー休みとも呼ばれていて、アルプス やスカンジナビア山脈のスキー場に出かけることを楽しみにしている人も少なくありませんが、家でゆっくりす ることに安らぎを覚える人もいます。寒い季節なので、スキーや散歩を楽しむ他は、屋内の楽しみがメインです。 特別展を冬休みと重なるように開催する博物館や美術館も多く、バレエやオペラ、芝居、音楽会、映画など、心が潤うひとときを楽しめる企画も盛り沢山です。芸術鑑賞そのものもヒュッゲのひとときですが、観劇の前に近くの心地よいレストランで食事を楽しむひととき、美術館をひと回りした後、コーヒーとお茶菓子で 一息つくひとときも心が潤うヒュッゲの時間です。
冷え込みの厳しい寒い日、散歩の途中に、ホットチョコレートなどの温かい飲みものを楽しんだり、長い散歩を楽しんだ後、温かな部屋でお茶やコーヒーを焼き菓子と一緒に楽しむひとときは、冬のヒュッゲの定番。特に週末の長い散歩に出かける習慣は、驚くほど定着しています。散歩の時に感じる冷たい空気は 新鮮で気持ちがよく、健康にもよいという認識は高いのですが、この季節の自然の表情は、惚れ惚れするほど美しいのです。葉が落ちている枝が重なって複雑なシルエットを描いている木々には独特の風情がありますし、その枝にシジュウカラやコマドリが止まっている姿を見つけると嬉しくなります。自然の美しさを堪能し、家族や友人との時間も大切にする週末。ヒュッゲのひとときで心と時間の余裕を意識的に作っていく、その積み重ねが良質な暮らしに繋がるのでしょうね。
2月も下旬になると、待雪草(マツユキソウ)とも呼ばれる可憐な花、スノードロップが咲き始めます。昔、雪には色がなかったため、雪がいろいろな花に色を分けてくださいと尋ねたところ、色を分けることを快諾したの がスノードロップだったという逸話があります。だから、雪はスノードロップのように白く、スノードロップの 花の先端はギザギザなのだと言われています。そして、雪はスノードロップの優しさを喜び、雪が積もっていてもスノードロップが咲き続けるように守っているのだ、とも言われています。このお話を思い浮かべながら、スノードロ ップの咲く道を散歩する時間もヒュッゲのひとときです。
Photo: © Jan Oster
(*) 日本の冬休みにあたるお休みは「クリスマス休み」と呼ばれています。
*この記事は、2020年2月に株式会社チャレンジドジャパンの公式サイトに掲載された内容を2025年2月に、一部、加筆修正しています。