Vintergæk
待雪草
待雪草(まちゆきそう)は、スノードロップとも呼ばれている花です。デンマークでは、二月中旬から三月上旬、あちこちでこの清らかで可憐な姿を見かけます。この花を見かけると、息子が小さかった頃に伺ったおはなしを思い出します。
このおはなしは、息子が通っているシュタイナー学校で菜園での仕事を教えてくださる先生から伺ったと思っていました。今回、微細な部分を確認したいと思い、先生に連絡したところ、「そのお話はもっと小さな子どもに話すおはなしだから、私はお話していないんだけど・・。」とくすっと笑いながら、資料をくださいました。では、どこで聞いたんだろうと、息子が通っていたシュタイナー幼稚園でいただいていた資料を探してみると、このおはなしが見つかりました。数年前と思っていましたが、実際には10年前にことだったのです。
今回は、そのおはなしをご紹介します。
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むかし、神さまが世界をお造りになり、ありとあらゆるものの色をお決めになりました。それは、夏だったので、誰もが雪のことを忘れていました。天使のお手伝いで、草は緑に、ばらは赤に、空は青になりました。ミヤマキンポウゲは黄色に、りすは茶色になりました。みんな、自分にもらった色を喜んだのです。
冬が近くなり、雪が降ってきました。雪には色がありませんでした。雪は神さまのところへ行き、誰の目にも見えないのが定めなのかとたずねました。いいえ、それは神さまのお考えではありませんでした。でも、ありとあらゆる色を使った後だったので、雪は、色をわけてくれるものを探しに旅立ちました。
雪は風にのって色をわけてくれるものを探しました。
最初にたずねたのは、ばらでした。ばらのような色だと、どんなに美しいだろうと考えたのです。
「ばらさん、ばらさん、色がなくて誰の目にも見えない私にあなたの色をわけておくれ。」
「ゆきさん、ゆきさん、おまえさんは冷たい。近づかないでおくれ。」と、ばらは答えました。
「私の色はあげないよ。だって、私の葉っぱや蕾が寒さでダメになってしまうもの。」
雪は、がっかりしてその場を去りました。
しばらく行くと、野原に咲いているミヤマキンポウゲが目に留まりました。
「きんぽうげさん、きんぽうげさん、色がなくて誰の目にも見えない私にあなたの色をわけておくれ。」
「わけるほどの色は持っていないよ。」とミヤマキンポウゲが答えました。
「冷たいきみは、誰にも見えないことを喜ぶべきだよ。」
雪はさらに探しに出かけました。しばらくして、丘に咲く桔梗が目に留まりました。
「ききょうさん、ききょうさん、色がなくて誰の目にも見えない私にあなたの色をわけておくれ。」
ききょうは、雪が近づいてきたことを感じたので、怖がって、草の中に隠れてしまいました。
雪は、ここでも色をわけてもらえないことを悟りました。
雪は、花から花へとたずねてまわりました。どこでも同じ答えが返ってきました。
「霜と寒さをもたらすゆきさんには、色がなくていいんだよ。」
雪は、石や草や木、空や人、動物にもたずねてみましたが、誰も色をわけてくれませんでした。
世界中を探しまわって、最後に残ったのは、小さな白い花でした。
「きみにたずねるのが最後だよ。」と雪が言いました。
「きっと、きみもぼくのような冷たいものには色をわけてくれないね。」
小さな花の答えは、今までの答えとは違っていました。
「もし、あなたがわたしの色をありがたいと思ってくれるのだったら」と、その花は答えました。
「神さまがお与えくださったものだもの。もちろん、わけてあげるわ。」
そして、その花は、自分に与えられた色を少しこすって、雪に渡しました。
そうして、雪はこの世の中で最も清らかで眩しい色をもらったのです。
雪はその花に言いました。
「きみが色をわけてくれたお礼に、春一番に花を咲かせてあげるよ。きみの花が咲くとき、ぼくは決して傷つけないよ。」
この花は「待雪草」と呼ばれています。わたしたちに春を告げてくれる花ですね。待雪草をよく見てごらんなさい。花の中に小さな緑の点々はあるでしょう。これは、雪に色をわけた跡なのです。