Solsort venter på forår
春を待つ「くろうたどり」
くろうたどりをご存知でしょうか?私は、デンマークで暮らすようになって、その美しい歌声に惹かれ、鳥好きな夫の影響もあって、身近な鳥になりました。
くろうたどりはツグミの仲間で、雄は漆黒の羽で覆われ、鮮やかな黄色の嘴を持ち、雌は、地味な茶色の羽で覆われています。デンマークでは、春から初秋にかけて、夜明けと夕暮れによく伸びる美しい囀りを耳にすることができます。くろうたどりの歌声で目が覚めると、春が近づいている喜びに溢れます。美しい夏の黄昏時には、くろうたどりの歌で、明るさが深夜まで続く北欧独特の夜が始まることを感じます。
くろうたどりは、土をつついて虫を食べて暮らしますが、冬は土が硬くなるため、食糧の確保が困難になります。くろうたどりが飢えて死んでいる姿は忍びなく、冷え込みが激しくなり、繁みに残っている赤い実が少なくなると、夫が買い出しに走ります。選ぶのは、糖度がしっかりしたりんご。りんごが好物というわけではなく、ほかに食べるものがなくなると、命をつなぐ手段としてりんごを食べるのだと聞きました。
りんごは、嘴でつつきやすいように横半分に切ります。ベランダや庭に置いてしばらくすると、嘴でつついた跡が残るようになり、何日かすると見事にりんごの皮だけになります。広島の実家で、冬の間、庭にやってくるヒヨのために、母が横半分に切ったみかんを枝に刺していた光景が重なります。
私が住むコペンハーゲンの住まいは1907年に建てられた集合住宅です。四方を囲むように建てられていて、中央が中庭になっています。この中庭に、くろうたどりの番(つがい)が棲みついていて、夏の半年、美しい囀りを楽ませてくれます。また、厳しい冬を越したくろうたどりが、夜明けに美しい歌声を奏でるようになると、遠く感じる春がゆっくりと近づいていることに改めて気づき、春の歓びをひと足先に感じることができます。デンマークの暮らしで耳にするくろうたどりの歌は、自然からのかけがえのない贈りもの。くろうたどりがもたらしてくれる豊かなひとときです。
文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster