Bondepige med slør

ライ麦パンスイーツ『ベールをかぶった農家の娘さん』

デンマークでは、クリスマスイブ前の日曜日4回を「アドベントの日曜日」と呼び、アドベントの第一日曜日を皮切りにアドベントと呼ばれる「待降節」(たいこうせつ)が始まります。アドベントは、キリストの降誕を待ち望み、キリストの生誕を祝う準備を整える期間ですが、デンマークでは、一年で最も日が短くなる日まで灯りを煌々と灯して、太陽の光が再び力を増していく起点となる冬至を敬虔に待つ、そんな北欧古来の祈りを感じるように思います。

今年のアドベントの第一日曜日は、11月27日でした。毎年、アドベントの第一日曜日には、市庁舎広場に飾られる大きなクリスマスツリーに灯りが点灯される式が行われるのがコペンハーゲンの風物詩です。アドベントの第一日曜日から、クリスマスを待つ時期が本格的に始まります。家庭でも、アドベントの第一日曜日にアドベントリースに飾られた4本の蝋燭の一つに灯りを灯し、クリスマスを迎える時候の訪れを祝います。

アドベントの週末には、さまざまなところでクリスマス・マーケットが開かれます。クリスマス関連グッズやクリスマス菓子の販売などを始め、さまざまな行事が盛り沢山で、クリスマスを迎える雰囲気が楽しめます。息子が通うシュタイナー学校では、アドベントの第一日曜日の前日、11月の最終土曜日26日にクリスマスバザーが開かれました。各学年の発表会とともにクリスマスにちなんだお菓子や手作り小物などの販売があり、その収益が学校の運営費に充填されるバザーです。今年の連載記事で取材に通った特別支援が必要な若者たちを応援する企業グレネスミネでもクリスマス・マーケットが同じ日に行われました。

我が家では、アドベントの第一日曜日に、たこ焼きをほんのひと回り大きくしたサイズのまんまるワッフル『エーブルスキーバ』を焼き、『グルック』と呼ばれるクリスマス・スパイスを効かせた温かい飲みものを添えて楽しみます。クリスマス・ヒュッゲの皮切りです、最近は、冷凍のエーブルスキーバが主流となっている感がありますが、手作りのエーブルスキーバは格段のおいしさ。グルックには、アルコールフリーのスパイス抽出液をまとめて仕込みます。その時の状況に合わせて、ポートワインで風味付けした赤ワインや白ワイン、カシス(黒房すぐり)やりんごのジュースにスパイス抽出液を合わせれば、クリスマスを待つ期間、手軽に手作りグルックが楽しめます。

夫の娘の婚家では、アドベントに義母の元に兄弟家族が集まり、皆で秘伝の『はちみつケーキ』を焼く習慣があります。今年はアドベント期間での日程調整が難しく、11月中旬の週末に集まったと聞きました。大学時代の友人は、小学校時代からのなかよしグループで、年に一度の出会いとクリスマス・ヒュッゲを兼ねて、総勢でわいわいと大量のクリスマス・クッキーを焼くという楽しみを持っています。クリスマスを迎えるためのいろいろな楽しみ方があるなんて素敵ですね。皆で集まって楽しみながらクリスマス支度を整えるという形もいいなと思います。

今年はライ麦パンを使った一品をお伝えしてきましたが、今月はライ麦パンとりんごを使った伝統的なスイーツ『ベールをかぶった農家の娘さん』をご案内します。デンマークで「伝統」と名がつく場合、オーブンが普及する以前の時代から引き継がれている一品を指すことが多いため、このスイーツも鍋でさっと用意できるタイプです。食後のデザートとしても楽しめますが、午後のお茶やコーヒーの時間に楽しむこともできます。

『ベールをかぶった農家の娘さん』は、誠文堂新光社刊「北欧料理大全」でご紹介している『昔風りんごケーキ』の仲間です。このシリーズでも『昔風りんご菓子』として紹介しています。『昔風りんごケーキ』や『昔風りんご菓子』は、小麦やナッツの主原料を甘くそぼろ状にしたものやキャラメリゼしたものをりんご煮と層にしますが、『ベールをかぶった農家の娘さん』は、ライ麦パンを甘いそぼろ状にしてりんご煮に組み合わせます。アーモンドは地産ではないし、小麦も長い間入手しにくい高級品だったせいか『昔風りんごケーキ』の方がおもてなし感が高いのですが、『ベールをかぶった農家の娘さん』は、デンマークで1000年以上の歴史を持つ食材を組み合わせていることが特徴です。砂糖が普及する前は、はちみつを使って作っていたに違いない・・・と思いを馳せています。

ライ麦パンが硬くなってしまう前に粉々にし、フライパンで炒って香ばしさを加えてから砂糖と絡めてそぼろ状にしたライ麦パンは、密封できる容器に入れて保管すると1ヶ月近く楽しめます。冬越しができる地産のりんごと組み合わせ、ライ麦パンを最後までおいしく食べる方法の一つとして重宝されたのではないかと思います。

ライ麦パンの複雑な味とりんごのやさしい味の組み合わせは、素晴らしい相乗効果を感じます。残念ながら、秋から冬にかけて『昔風りんごケーキ』や『昔風りんご菓子』をレストランなどでも見かける反面、『ベールをかぶった農家の娘さん』は、なかなか見かけません。サステナブルへの高い関心で『ベールをかぶった農家の娘さん』がデンマークを代表するサステナブルスイーツとして定着すれば嬉しいなぁと思っています。

煮崩れするタイプで、煮りんごに向いた酸味のあるりんごとおいしいライ麦パンで作ると、間違いなく素晴らしい一品に仕上がります。ライ麦パンは、ライ麦が80%以上でできているものをお選びください。ライ麦パン独特のコクと食感が楽しめます。

影役者的な存在は、カシス(黒房すぐり)のジャム。りんご煮をやさしい味と対照的な酸味の効いた濃い味がアクセントになります。私はりんごもカシスもかなり酸味を残して仕上げるのが好きです。

余談ですが、前述の『りんごスイーツ』には赤房すぐりのプリサーブ、『ベールをかぶった農家の娘さん』には黒房すぐりのジャムを添えるのがお約束という点も、面白いなと思います。ライ麦パンと黒房すぐりの組み合わせは、『ライ麦パンのお祝いケーキ』でも使われる黄金の組み合わせです。

このスイーツは常温で楽しむのが一般的ですが、りんご煮の粗熱がとれた段階で、少し温かさを感じる状態でもおいしいです。大切なポイントは、そぼろ状の甘いライ麦パンのカリカリした食感。りんご煮とライ麦パンのそぼろを組み合わせたら、すぐに召し上がってくださいね。


『ベールをかぶった農家の娘さん』


材料

<りんご煮>

  • りんご 500 g(酸味のあるものをお勧めします)

  • 水 カップ ½

  • きび砂糖 カップ ½ 〜1(お好みで調節してください)

  • レモン果汁 適宜

<甘いライ麦パンそぼろ>

  • ライ麦パン 200 g(4枚)

  • バター 50 g

  • 砂糖(黒砂糖がお勧めですが、きび砂糖でもOK)大さじ2

  • ヘーゼルナッツ 50 g

<飾り>

  • カシス(黒房すぐり)ジャム 一人分が小さじ1

  • 純生クリーム 100 ml


作り方

<りんご煮>

  1. 8等分にして皮を剥いて芯をのぞいたりんごを鍋に入れ、砂糖と水を加えて、蓋をして中火で10分くらい、りんごが柔らかくなるまで煮る。木べらやフォークなどで煮りんごをマッシュする。

  2. 煮りんごが熱いうちに砂糖(分量外)とレモン果汁で甘味と酸味を調節する。

<甘いライ麦パンそぼろ>

  1. ライ麦パンのスライスは、フードプロセッサーもしくは粗いおろし金で細かく砕く。

  2. フライパンにバターと砂糖、粗い粉状のライ麦パンを加えて中火もしくは弱火で粉状のライ麦パンの水分が飛び、そぼろ状になるまで炒る。

  3. あらかた完成した時点で粗く刻んだヘーゼルナッツを加え、数分ほど一緒に炒る。

<組み立て>

  1. 1人分のグラスもしくは取り分け用の鉢に、潰したりんご煮と甘いライ麦パンそぼろを2回繰り返して重ねる。

  2. 柔らかく泡立てた生クリームとジャムを飾る。



文・レシピ: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

<ご案内>
掲載写真はInstagram @sachikokuramoto.dkでもご紹介します。

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