デンマークの暮らしとヒュッゲ
チボリのおはなし
2021年2月
今月は、チボリ正門から続く並木路の先に建つ異国情緒たっぷりの建物「NIMB(ニム)」に焦点をあてて、チボリでのヒュッゲをご紹介します。
1909年、現在のコペンハーゲン中央駅の建設に合わせて道路の区画変更が行われ、それまで工芸品店や見せ物、レストランなどの複合施設として人気を博していた「バザール」が取り壊され、NIMB(ニム)が誕生しました。
日常的には「ニム城」と呼ばれているアラビア様式の白亜の建物は、お伽の世界に舞い込んだようなチボリを象徴する存在で、外装は4000個におよぶ電球を使い「チボリ様式」と名付けられた独特の手法で飾られています。美しい庭では、透明な筒に入っている水の中で大小の泡が楽しそうに踊る仕組みの「泡噴水」が目を引きますが、これは原子物理学への貢献により1922年にノーベル物理学賞を受賞したデンマーク人理論物理学者ニールス・ボーア氏のアイデアだと言われています。この庭は、秋にはかぼちゃの品評会、クリスマスにはクリスマス・オーナメントで飾られ、冬には屋外スケート場として賑わっています。
NIMB(ニム)という名前は、チボリで高評を博したレストランを経営し、レストランのあり方を一新させたことで有名なニム夫妻の苗字にちなんでいます。19世紀後半、それまで女人禁制だったレストランに女性も同伴できるという斬新な枠を設け、どんな階層の人々も手厚くもてなし、おいしい料理をゆっくりと落ち着いて楽しめる雰囲気を生み出す達人だったと言われるニム夫人は、150年近く経った現在でも、料理界に大きな影響を及ぼした人物として、高い知名度を誇っています。ニム夫人はレストラン業に留まらず、1888年に出版された「ニム夫人の料理本」など、実用的で完成度の高い料理本を数冊執筆し、家庭料理を含む料理界へ大きく貢献しました。ちなみに「ニム夫人の料理本」は、1996年に再販され、再び、新たな視線で注目を浴びています。
ニム城に用意されたレストラン・ニムでは、ニム夫妻の長女ヘンリエッテが料理長、次女セリーナがマネージャーという役割分担で経営にあたり、料理・もてなしともに国内最高峰という地位を確立し、文化人のみならず、さまざまな階層の人々に愛されました。1925年、北欧を代表するデンマーク人作曲家カール・ニールセン氏が、20世紀の芸術に広く影響を及ぼしたロシア人作曲家ストラヴィンスキー氏とニムで会合した時の写真は、当時のニムが築いた文化的地位を如実に表しています。
ニム城は2008年に大掛かりな改装が行われ、アラビア様式の白亜の城は輝きを増し、北欧的なミニマリズムとヨーロッパらしい美しいディテールを併せ持つ内装が施され、チボリ直結の飲食施設を併設したニム・ホテルが誕生しました。「ニム夫人」を意味するデンマーク語「Fru Nimb」は、デンマークの食文化を代表するスモーブロに特化したレストランの名前に使われています。
2017年の複合商業施設チボリ・コーナー建設時には、部屋数だけではなく、洗練された屋上プールなどを増設し、20世紀初頭に文化人や時代を先駆ける人々が競って通ったレストランは、100年の歳月を経て、ニムというブランドとして変革を遂げました。ホテル、レストラン、カフェ、ウェルネス、パーティー、ウェディングなど、さまざまな角度から「上質のくつろぎ」をキーワードとしたサービス展開を行い、独自の洗練されたヒュッゲの形を、国内だけではなく、国際的な視野で発信しています。
ニム城と接続している複合商業施設チボリ・コーナーには、チボリに入園しなくてもチボリを望むことができ、さまざまな料理が気軽に楽しめる「チボリ・フードホール」が入っています。あらゆる階層の人々がさまざまな形で楽しめる空間づくりは、創設者ゲオ・カーステンセン氏が力を注いだことでしたが、その精神は170年以上経った現在も引き継がれています。
チボリ創立翌年の1844年からお抱えの子ども衛兵として活動を開始したチボリガードは、ニム・ファミリーがレストラン経営に君臨していた時代、子ども音楽隊として活動の場を広げました。1921年には現在の王立近衛兵の祝賀衣装を模した制服が導入され、デンマーク国民にとって慶びとヒュッゲを感じる制服は、2021年に100周年を迎えました。
チボリガードは、国内外の貴賓をお迎えする際にもデンマーク文化の象徴として活躍しています。36代アメリカ大統領のリンドン・ジョンソン氏がJ.F.ケネディ大統領の副大統領時代にデンマーク王国を訪問した際にも表敬の栄に浴しました。
今月はNIMB(ニム)がテーマですので、音楽もNIMB(ニム)にちなんだ曲『ニム夫人に乾杯』、そして、NIMB(ニム)の美しい夜景を象徴するような『夜の星ワルツ』をご紹介します。チボリガードによる演奏がお楽しみいただけます。
『ニム夫人に乾杯』は、チボリガード出身のホルン奏者で王立近衛兵の音楽指揮者を務めていたデイヴィットM. A. P. パルムクエスト氏の作品、『夜の星ワルツ』は、チボリで開園当初から30年以上に渡って音楽監督を務めたデンマークを代表する作曲家H. C. ロンビュ氏の作品です。デンマーク料理界に大きく貢献したニム夫人を讃えた曲、そして、音楽家にとってリハーサルが必要ないと言われるほど頻繁に演奏される曲をお楽しみいただければ嬉しく思います。
Photo: © Jan Oster
*この記事は、2021年2月に株式会社チャレンジドジャパンの公式サイトに掲載された内容を2025年2月に、一部、加筆修正しています。
著者が所持する「ニム夫人の料理本」(1900年刊第3版)
レストランの入口に飾られているニム夫人の肖像画 © Tivoli
レストラン「Fru Nimb(ニム夫人)」店内 © Tivoli
ニム城の前を行進するチボリガード
1925年12月2日に「Nimb(ニム)」で開かれた
作曲家ストラヴィンスキーのためのパーティーに参加した芸術家・音楽家
作曲家カール・ニールセンがストラヴィンスキーの隣に座っている。
「バザール」コペンハーゲン市博物館所蔵
Tivoli, Bazarbygningen ca. 1890, Københavns Musuem
チボリ・マップ © Tivoli
(黄色で今月のスポットを示しています。)